45.判決


お忙しい方は、後半の「当裁判所の判断」を先にどうぞ。
「裁判所の言葉はよくわからんぞ!」と言う方は、次回「判決の解説」を掲載いたします。




平成@@年@月@日判決言渡し 同日原本交付・裁判所書記官   


平成一一年山第一八号敷金返還請求控訴事件、同年山第二五号敷
金返還請求附帯控訴事件(原審・熊本簡易裁判所平成一〇年(ハ
)第三四五〇号)、同年(レ)第二四号損害賠償等反訴請求事件
平成@@年@@月@@日弁論終結

         判 決

       熊本市@@@@@@@@@
         控訴人 (附帯被控訴人、反訴原告)A子
       右訴訟代理人弁護士        @@ @@


     徳島市@@@@@@@@@@
       被控訴人 (附帯控訴人、反訴被告)DAI


         主 文
一 原判決を次のとおり変更する。

   1 控訴人は、被控訴人に対し、金一一万〇三三五円を支
     払え。

   2 被控訴人のその余の請求を棄却する。

二 被控訴人の本件附帯控訴を棄却する。

三 控訴人の反訴請求を棄却する。

四 訴訟費用は、第一、二審 (附帯控訴、反訴を含む。)を通
  じてこれを四分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の
  負担とする。



        事実及び理由

第一 請求等

 一 原判決の表示
  1 被告は、原告に対し、金一一万八四二〇円を支払え。
  2 原告のその余の請求を棄却する。
  3 訴訟費用は被告の負担とする。
  4 この判決は仮に執行することができる。

 二 当事者の請求

  1 平成一一年(レ)第一八号控訴事件 (以下 「本件控
    訴事件」という。)

    控訴の趣旨

   (一) 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

   (二) 被控訴人の請求を棄却する。

   (三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする
。

  2 平成一一年M第二五号附帯控訴事件 (以下 「本件附
    帯控訴事件」 という。)の附帯控訴の趣旨
   (一) 原判決中、附帯控訴人敗訴部分を取り消す。
   (二) 原判決を、次のとおり変更する。
       附帯被控訴人 (控訴人) は附帯控訴人 (被
       控訴人)に対し、金一五万一四二〇円を支払え。
  3 同年(レ)第二四号反訴請求事件 (以下 「本件反訴
    事件」という。) の請求の趣旨
   (一)反訴被告は、反訴原告に対し、金五九万九八四八円
      及びこれに対する平成一一年六月二八日から支払済
      みまで年五分の割合による金員を支払え。
   (二) 訴訟費用は反訴被告の負担とする。
   (三) 仮執行宣言


第二 事案の概要

 一 前提事実 (特に、証拠を掲記しない限り当事者間に争い
   がない。)

  1 被控訴人 (本件附帯控訴事件附帯控訴人、本件反訴事
    件被告。以下「被控訴人という。)は、平成三年四月二
    五日、控訴人(本件附帯控訴事件附帯被控訴人、本件反
    訴事件原告。以下 「控訴人」という。)から熊本市@
    @@@丁目@@番地@@@所在の@@@@@ビル@@@
    号室(以下 「本件建物」 という。) を賃料七万六
    〇〇〇円 (月額) との約定で、賃借した (以下 
    「本件賃貸借契約」 という。)。

    また、被控訴人は、右の際、控訴人に対し.、敷金とし
    て二二万八〇〇〇円を交付した (以下 「本件敷金」
    という。)。

  2 被控訴人は、平成一〇年、本件賃貸借契約を解約し (
    弁論の全趣旨)、 同年七月二九日、本件建物を明け渡
    した。

  3 被控訴人は、平成三年四月二五日から平成一〇年七月二
    九日までの賃料及び賃料相当損害金全額を控訴人に支払
    った (弁論の全趣旨)。

  4 被控訴人と控訴人は、本件賃貸借契約締結の際、概要、
    次のとおり合意した (甲一)。

 (一) 敷金に関する合意
  (1)第五条二項
    敷金は、賃借人が契約終了に伴う建物の明漬しを完了し
    た場合において、契約書第一七条の建物明漬しにおける
    賃借人の負担すべき費用を控除したのちに返還される。

  (2)第一七条一項(3)
    賃借人は、賃貸借契約の中途解約に伴う建物の明漬しを
    行う場合、賃借人の破損又は汚損による建具、壁、付属
    家具等の修復に要する費用は賃借人が負担する (以下
    「本件条項」 という。)。
  (3)特約条項
    解約引越の場合は、引越後の掃除負担金は実費にて敷金
    より控除する (以下 「本件特約」 という。)。
 (二)動物の飼育に関する合意 (第一二条二項)
    賃借人は、動物を飼育してはならない。

 5 控訴人の支出した工事等の費用

    控訴人は、被控訴人の本件建物の明漬しの後、修復工事
    を行い、工事代金として合計四五万三九六八円を業者に
    支払った。右工事代金の内訳は次のとおりである。
   (一)壁のクロスの張替え     一五万六二〇〇円
   (二)和室・ダイニング等の天井塗装 三万八四〇〇円
   (三)洋間の床フロア合板の張替え 一三万八〇〇〇円
   (四)洋室下段・流し下のベニヤ張替え  四〇〇〇円
   (五)洗面所・便所のCFシート張り   八〇五〇円
   (六)排水管の清掃           六〇〇〇円
   (七)室内清掃           三万三〇〇〇円
   (八)網戸張替え            二七〇〇円
   (九)残材処分費・諸経費      四万六〇〇〇円
   (一〇)消費税           二万一六一八円

 6 被控訴人は控訴人の許諾を得ず、本件建物において猫を飼
   育していた。

 7 畳表及び襖の張替え費用七万三八八〇円及び被控訴人の猫
   の飼育により破損した網戸の張替え費用二七〇〇円 (前
   記5(八)) の合計七万六五八〇円は、本件敷金より控
   除される。

二 事案説明及び争点等

 本件は、被控訴人が敷金 (本件敷金から右一7の金額を控除
 した額)の返還を求めたのに対し、控訴人が、@本件建物の明
 浸し後、その修復に本件敷金額を超える額を要し、さらに、A
 被控訴人の契約違反等により精神的損害を被ったとして、右修
 復費用等の敷金へ一の充当を主張して争い、かつ、その超過部
 分の支払を求めている事案であるが、その争点及びこれに関す
 る当事者の主張は以下のとおりである。

 1 控訴人が支出した前記一5(一)ないし(五)、(九)及
   び(一〇)の各費用は、本件条項より、被控訴人が負担す
   べきか否か。            .
   (一) 控訴人
       これらの費用は、通常退去に伴う原状回復費用な
       いし被控訴人の義務違反(猫の飼育) により生
       じた破損・汚損の修復費用として、本件条項によ
       り、被控訴人が負担すべき費用となる。

       よって、これらの費用は、本件敷金から控除され
       るべきであり、かつ、本件敷金を超過する分につ
       いては、被控訴人は控訴人に支払う義務がある。
   (二) 被控訴人
       否認ないし争う。本件条項には、賃借人の通常の
       使用に伴って生じる損耗の修復は含まれない。し
       かるに、控訴人が主張する 「通常退去に伴う原
       状回復費用」 は、この通常の使用に伴って生じ
       る損耗の修復に他ならない。

       また、被控訴人は、本件建物を破損・汚墳しない
       よう注意深く猫を飼育していた。したがって、本
       件建物に動物臭が付着したり、猫の爪による損傷
       が生じたということはない.。

 2 前記一5(六)及び(七)の費用は、本件特約により、被
   控訴人が負担すべきか否か。
   (一) 控訴人
       これらの費用は、本件特約により被控訴人が負担
       すべきである。よって、本件敷金から控除すべき
       であり、かつ、前記1の費用と併せて、本件敷金

       を超過する分については、被控訴人は控訴人に支
       払う義務がある。
   (二) 被控訴人

       争う。

 3 控訴人の慰謝料請求の可否
   (一) 控訴人
       被控訴人の義務違反 (猫の錮育)により本件建
       物を汚壊され、また、退去後も被控訴人は猫の錮
       育を否定したばかりか、控訴人に対し 「人権蹂
       躙だ。名誉毀損で訴える。」 などと反発したた
       め、控訴人は精神的苦痛を受けた。

       その慰謝料額は三〇万円を下らない。
   (二) 被控訴人

       否認する。

第三 当裁判所の判断

 一 争点1について
   1 本件条項の解釈
     前記前提事実4(一)(1)及び(2)を総合すると
     、本件条項は、賃借人が建物明漬しの際に負担する費
     用のうち、建具等の破損又は汚損による修復の費用の
     負担を定めたと解されるところ、同条項の文言は、破
     損・汚損が生じた事由として 「賃借人の」 との限
     定が加えられており、これを合理的に解釈すれば、右
     破損・汚損の原因となる事由は、賃借人側の事情、す
     なわち、賃借人の善管注意義務違反に限定され、経年
     変化による自然損耗や、賃借物件の通常の使用に伴っ
     て生じる損耗に伴う破損・汚損は含まれないと解する
     のが相当である。

     そして、賃貸物件及びその付属物に生じた破損・汚損
     が、賃借人の通常の使用からは生じないものであつた
     り、その破損・汚損状態が賃借人の通常の使用に伴っ
     て生じる範囲を超えて拡大したとみられるような場合
      (以下、これらを併せて 「通常外損耗・拡大損耗
     」 という。) には、賃借人に何らかの管理上の不
     備があつたことが推認されるから、このような場合に
     は、不可抗力等の特段の事情がない限り、賃借人の善
     管注意義務違反が推定されるというべきである。


     なお、賃借人の善管注意義務違反による破墳・汚損が
     生じた場合でも、本件条項の定める賃借人の責任の性
     質は債務不履行責任であるといえること (以上の考
     察の結果である。)、そして、本件条項の文言も、修
     復に要する費用は破損・汚損に 「よる」 ものであ
     ることを明示していることからは、その修復工事は右
     破損・汚墳の修復として必要かつ合理的な工事といえ
     ることが必要である。

   2 そこで、これを、控訴人が支出した前記一5(一)な
     いし(五)、(九)及び(一〇)の各費用につき検討
     する。

    (一) 壁クロスの張替え
        本件建物の壁クロスの破損・汚損状況について
        は、これを裏付ける的確な証拠はないばかりか
        、証拠 (@@ヤエ、@@輝道、控訴人) に
        よれば、控訴人は、一般に、壁クロスの具体的
        な破損・汚損の有無及び程度如何に関わらず、
        賃借人が賃借物件を退去した湯合には、これを
        張り替えていたこと、そして、本件における壁
        クロスの張替えも、            
        右の観点から行われていたことが認められ、こ
        れによれば、壁クロスの管理につき被控訴人に
        善管注意義務違反があつたとはいえないばかり
        か、仮に被控訴人に右義務違反があつたとして
         も、壁クロス張替工事との間に因果関係を認
        めることができない。

        よって、壁クロスの張替費用が、本件条項によ
        り、被控訴人が負担すべき費用であるとはいえ
        ない。

        なお、@@輝道の証言 (以下 「@@証言」
        という。) は、壁クロスに猫の臭気が付着し
        た可砲性を指摘する。確かに、乙一四及び弁論
        の全趣旨によれば、猫の錮育により室内に、あ
        る程度の動物臭が付着することは不可避である
        ことが認められるが、壁クロス自体はビニール
        性の材質のものであるから (@@証言より認
        められる。)、右クロスにその張替えをしなけ
        れば除去しえない程度の動物臭が付着していた
        とは通常考え難い。


        また、同人は、クロスの継ぎ目に動物臭が付着
        する可能性をも指摘するが、これを裏付けるに
        足りる的確な証拠もない以上、直ちに、採用で
        きるものではない。


    (二) 和室・ダイニング等の天井塗装

        前述のとおり、猫の飼育により室内に、ある軽
        度の動物臭が付着することは不可避であり、か
        つ、これに@@証言及び控訴人本人の供述を総
        合すると、被控訴人の明漬し後の本件建物内部
        には、被控訴人が飼育していた猫の臭気が残存
        していたと認められる (なお、証人@@敏和
        は、本件建物内部に異臭・悪臭は感じられなか
        つた旨証言するが、乙一四及び弁論の全趣旨に
        よれば、猫の臭気は猫を飼育しているものには
        判別し難いことが認められ、同証言によれば、
        同人は、猫を錮育していたというのだから、同
        証言は採用できない。)。


        しかし、本件建物の天井は、コンクリートに塗
        料が塗られているだけであり (@@証言より
        認められる。)、動物臭が付着するとは通常考
        えがたいことや、@@証言も、天井に動物臭が
        染みついていたかは確認できない旨述べている
        ことを併せ考慮すれば、猫の臭気が本件建物天
        井に付着していたと認めることはできない。



        よって、和室・ダイニング等の天井塗装工事は
        、被控訴人の善管注意義務違反 (猫の飼育)
         により生じた汚損・破揖の修復として必要か
        つ合理的な工事とはいえないから、被控訴人が
        負担すべき費用とはならない。


     (三)洋間の合板フロアの取替え

        @@証言及び控訴人本人の供述によれば、本件
        建物の廊下、ダイニング、キッチン部分の床フ
        ロアに引っかいたような傷跡が存在したことが
        認められる。しかし、右床フロアはいわゆるフ
        ローリングであり、非常に痛みやすい性質のも
        のであること (すなわち、通常の使用に伴っ
        ても、傷が付き易い。) に加え、猫は爪を立
        てて歩行しない習性を有すること (弁論の全
        趣旨)、被控訴人の.妻は、猫の爪を切ったり
        、床フロアに絨毯を敷く等の猫の爪による床の
        損傷を防止する措置を講じていたこと (甲一
        二、被控訴人本人)、そして、@@輝道が本件
        建物の損傷箇所や、臭気が感じられた箇所を特
        定した乙一五中には、床フロアの傷の存在は指
        摘されていないことを考慮するならば、右傷跡
        が猫の爪による可能性は完全に否定できないま
        でも、そうであると断定はできず、また、仮に
        、右傷跡が猫の爪によるものだとしても、その
        損傷の程度は、床フロアの合板を張り替えなけ
        ればならない程度にまで至っていたとは認めら
        れない。



        よって、洋間の合板フロアの取替えについては
        、被控訴人の義務違反による汚拐・破損の修復
        として必要かつ合理的な工事とはいえないから
、       被控訴人の負担すべき費用とはならない。



     (四)洋室下段・流し下ベニヤ張替え

        まず、流し下ベニヤの張替えは、その性質上、
        賃借人の通常の使用に伴って生じる揖耗に対応
        する工事とみられるが、流し下ベニヤが通常外
        損耗・拡大損耗を来していたと認めるに足りる
        証拠はない。


        また、洋室下段のベニヤ張替えについても、@
        @証言中には、洋室押入の下に濡れたようなシ
        ミがあり、このシミが猫の尿によるものである
        ことを示唆する証言もみられるが、右のシミの
        原因を確定するに足りる的確な証拠を欠く以上
        、直ちに、右のシミが猫の尿によるものである
        とは認めるに足りない。


        なお、このシミについては、通常外損耗・拡大
        損耗とみる余地もないではないが、シミの程度
        等につきこれを.確定するに足りる証拠はない
        以上、これを認めることはできない。

                             
           

        よって、洋室下段・流し下ベニヤの破損・汚損
         つき、被控訴人に善管注意義務違反があつた
        とはいえない。



     (五)洗面所・便所の床CFシートの張替え

        @@証言によれば、洗面所・便所の床CFシート
        は、水の使用により汚損し易い箇所であるため
        、その張替えを行う必要があつたことが認めら
        れるが、本件において、洗面所・便所の床CFシ
        ートが通常外損耗・拡大損耗を来していたと認
        めるに足りる証拠はなく、却って、@@証言及
        び前記(一)の事情を総合すると、右工事は、
        賃借人の退去に伴って通常行われ、壁クロスの
        張替えと同様、その損傷の有無や程度に関わら
        ず、一律に行われていた工事であつたと認めら
        れる。


        したがって、被控訴人の善管注意義務違反を認
        めることはできないばかりか、仮に、右義務違
        反があつたとしても、洗面所・便所の床CFシー
        ト張替工事との間に因果関係を認めることはで
        きない。

        なお、@@証言中には、右シートの張替えは猫
        の臭い対策として行つた旨述べる箇所があるが
        、同証言によればCFシートは壁クロスと同じく
        ビニール素材であるというのだから、そもそも
        、右シートに動物臭が付着するものかどうかは
        疑問であり、これを裏付ける的確な証拠もない
        以上、右シートが被控訴人の義務違反により破
        損・汚鴇したとは認めがたい。


        よって、洗面所・便所の床CFシートの張替えに
        ついても、被控訴人の負担とすることはできな
        い。



    (六) 残材処分費・諸経費及び消費税

        控訴人が行った以上の本件建物の修復工事は、
        通常使用に伴う損耗の修復に止まるか、或いは
        、被控訴人の義務違反との間に合理的関連性を
        有しない工事であるから、これらの修復工事に
        付随する残材処分費・諸経費及び消費税を被控
        訴人が負担する理由はないといわざるを得ない
        。



    3 以上の次第で、控訴人の主張はいずれも採用できな
      い。



 二 争点2について

   前記のとおり、本件賃貸借契約においては、賃借人退去後
   の清掃費用は、賃借人が負担する旨定められているところ
  (本件特約)、控訴人は、室内清掃費用として三万三〇〇〇
   円を支出しているのだから、被控訴人は右費用を負担する
   義務がある。

   また、本件特約は、これを室内清掃に限定しておらず、排
   水管清掃も(六〇〇〇円)、本件特約との関係でいえば、
   賃貸物件の原状回復のため合理的な関連性があることは否
   定できないから、排水管清掃費用についても本件特約条項
   の適用があるというべきである。

   よって、この点に関する控訴人の主張は理由がある。

   なお、右費用については、消費税五パーセントを付加すべ
   きであるから、合計四万〇九五〇円が被控訴人の負担すべ
   き費用となる。



 三 争点3について

   被控訴人は、動物角育禁止特約に違反して猫を飼育したも
   のであるが、右特約の趣旨は、動物臭の付着や、動物によ
   る賃貸物件及びその付属物の損傷を防止し、もって賃貸人
   の財産的利益を保護することにあると解されるから、右義
   務違反による賃貸物件の破損・汚損が著しく、かつ、賃貸
   人が当該賃貸物件に特別の愛着を有していた等の特段の事
   情がない限り、動物飼育禁止特約の違反も財産的損害の賠
   償で十分補われるというべきである。



   そして、本件においては、右特段の事情を認めるに足りる
   証拠はない。



   なお、控訴人は、本件紛争過程における被控訴人の言動に
   より精神的損害を受けたとも主張するが、控訴人の主張を
   前提としても、被控訴人の行為が違法であるとはいえない
。



   以上の次第で、控訴人の主張は理由がない。



 四 まとめ

   よって、交付した本件敷金二二万八〇〇〇円から、@畳表
   ・襖の張替え費用七万三八八〇円、A網戸の張替費用二七
   〇〇円、B清掃費用四万〇九五〇円を控除すべきである。
   なお、右Aの網戸の張替費用については、消費税五パーセ
   ントである一三五円を付加すべきである。 したがって、
   被控訴人の本訴請求は、金一一万〇三三五円の支払を求め
   る限度で理由があるが、その余の請求については理由がな
   く、また、控訴人の反訴請求は理由がない。



 五 結語

   よって、原判決中被控訴人の本訴請求を金一一万〇三三五
   円を超えて容認した部分は失当であり、この限りで本件控
   訴は理由があるから、これを本判決主文第一項のとおり変
   更し、本件付帯控訴及び本件反訴請求はいずれも理由がな
   いからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき
   民訴法六一条、六四条、六七条二項を適用し、第一、二審
   、附帯控訴及び反訴を通じてこれを四分し、その一を被控
   訴人の、その余を控訴人の負担として、主文のとおり判決
   する。



 熊本地方裁判所民事第四部
         裁判長裁判官  高野裕
            裁判官 波多江真史
            裁判官 篠原淳一

 右は正本である。
 平成@年@月@日
 熊本地方裁判所民事第四部
         裁判所書記官 宮本保久




(続く)