41.ついに大家とご対面(その2)(証人尋問その5)


この連載、21世紀まで持ち越しちゃいました。
まったくもう、更新のペースが遅いということだけが理由で、ミレニアムも新世紀も、なんの関係もございませんです、ハイ。
最近冒頭で言い訳ばかりしているようで心苦しいのですが、とにかく、今世紀中には終わらせる予定ですので、引き続きご愛顧お願いします。

さて、大家ご本人が登場しての証人尋問の続きでございます。
いくらこれが裁判で、それもすでに相手の準備書面で書かれていることとはいえ、目の前でありもしないことを痛罵されるのは不快なものです。
それも、反論はしてはならず、あくまでその証言を突き崩す、または相手から自分に有利な証言を引き出すことだけが許されているのですから、これは結構厳しいものがあります。言いたいことをぐっとこらえ、不快な表情を出さないように、尋問を続けていきます。部屋が汚かったかどうかなんて、結局私と大家が尋問しあっても水掛け論なので、こちらとしては簡単に確認した上で、「不思議な話ですね」と軽く皮肉るにとどめておきました。参考のために言いますと、この辺、当事者としてはいちばん主張したい・・・「部屋を汚してなんかないぞ!」・・・・所なんですが、クールになりましょう。
仮にあなたが裁判長なら、争いごとの当事者が目の前で「汚い!」「汚くない!」と罵りあいつづけていたらどうでしょう。
「そこのところはさあ、こっちが判断するんだよ。言い合いになってるからここに来たんだろ」と、まあ、こんな心境になるものではないでしょうか。
ですから、この段階までに「自分の部屋は汚くなんかなかった」という証拠(写真など)や陳述書、証人を出しているわけですから、改めて法廷で当事者同士が言い争う必要はないわけです。それより、せっかく張本人が法廷に引っ張り出されているのですから、相手の口から自分の役に立つ証言を引き出すことに精力を傾けるたほうが賢明です。
「あなた、『動物飼育による工事』の請求書と、『通常の』請求書の2通を送りつけてきましたね」と私。
「とりあえず、動物飼育による・・という方は置いておいて、『通常の』の方なんですがね、これ、いつも退去した賃借人にこんなものを送りつけてるんですか」
この連載を読んでいただいている方なら、「ははあ」と私の狙いは読めていることでしょう。問題は、そこに大家がきっちり乗ってくるか、です。
相変わらず私に目を合わそうとしない大家が答えました。
「そうです」
さも当然、というふうです。何故そんなことを訊くのかと言わんばかりの答え方でした。法廷の、いちばん高いところをちらりと見ると、三人の裁判官は彼女の答えに注目しているようです。
私は、ちょっと驚いたふうに尋ねました。
「え。どうしてです?壁のクロス張りかえまでさせてるんですか」
「あたりまえでしょう」
極めてうざったそうに、邪険な答えが返ってきます。
「汚く汚されたものを、そのまま次に貸せるわけがないでしょう。だからきれいにしてもらっているんです」
「それを賃借人に負担させてると、いつも」
「きれいにして返していただくだけのことです」
「誰が判断しているんですか、それを」
「はあ?」
「だから、あなたのとこのマンションを出てく人が、自分の費用でクロスの張り替えまでしなきゃいけないほど部屋を汚し続けたということを、誰が判断しているのか、訊いているんです」
その時初めて大家が私の目を見て、発言しました。
「私です」
自信たっぷりに、続けました。
「皆さんから、頂いています」

さて、この裁判では大家側が反訴という形で私に対する慰謝料請求までしていますから、ばかばかしいとはいえ、そちらの方も少し念を押しておくことにしました。
つまり、私が契約を破ってネコを飼育したことや大家に無断で結婚して、勝手に住居人を増やした(つまり妻)ことなど、契約違反により心理的な(?)損害を被ったという、アレですね。
「契約には最重要項目として、『暴力団関係者の入居を断る』とうたっていますね」 「もちろんです」
「私の隣室に暴力団関係者が入居していて、随分迷惑したんですが、ご存じですね。あなたは自分で決めた契約さえ守らない」
「あの人が暴力団関係者かどうかそんなことは・・」
「あなたの所に、警察官が捜査に来ましたね」
「なんのことですか」
「熊本県警察本部暴力団対策課の捜査員があなたのところを訪れましたね。私の隣室の住人のことで」
しばらく沈黙があって、大家が口を開きました。
「私の所に警察の方は沢山来るんですよ。私は警察とお知り合いですから。@@署の署長さんも、本部の@@さんも、@@署の副署長さんも、みんな私のお知り合いで、懇意にさせていただいておりますの。今回の裁判だって、@@署の@@課の刑事さんのご紹介であの弁護士さんにお願いさせて頂いたんですから・・・・」
私が唖然としながら、向こうに座っている弁護士を見やると、さすがにあわてているようで、何か言いたそうに大家を見つめています。しかし大家はひたすら喋ります。そして最後に、こう見得を切りました・
「熊本中の警察の偉い方たちは、みんな私の知り合いなんです!」
・・・・・・・・・・・法廷が、異様な沈黙に包まれました。
私は気を取り直して、裁判長の方を向きました。
「A子氏は、熊本中の警察をご存じだそうです。質問を終わります」
大家の弁護士があわてて立ち上がり、
「依頼人は、警察の@@協会の理事も務めておられて、それ故に知己も多いそうです」
とだけ言って、座りました。・・・・かわいそうに。

このようにして、大家の証人尋問は終わりました。

(続く)