25.結審〜証拠の捏造は犯罪です!〜
さて、大家の側も何か出さないとまずいと思ったようです。
「証拠」というのが送ってきました。
部屋をリフォームするにあたっての、業者からの「見積書」です。
「なんだ、これならこっちのほうでもう出してるじゃん」と思いましたよ。
(このシリーズの第7回「恐怖の館」参照。)。
ところが、よく見るとこれが2枚に分けてあるんです。
一枚目のほうには「通常工事による見積もり」とあって、二枚目のほうには「ペット飼育のためによる工事見積もり」と書いてあります。
この二枚を足すと、私が当初もらった「見積もり」の額になるようになっています。
で、証拠説明書には、「というわけでペット飼育による損害が発生した」という意味の能書きを垂れています。
・・・・・・・・。
ほんとに毎度毎度怒らせてくれますよね、この人。
最初の見積もりをすでに裁判所に出してあるのですから、いまさらこんないかにも業者に作らせましたっていう捏造証拠を出して恥ずかしくないのでしょうか。
おまけに、です。
よく見ると、その二枚の「見積書」と最初にこちらに送り付けてきた見積もりは、工事番号が全部同一なんです。
まあ、業者のほうもそこまで嘘をつくお手伝いはできなかったと言うことなんでしょうね。見積もりの日付の欄は、空欄になっています(苦笑)。
で、その「ペットによる損害」の見積もりのほうには、なぜか「天井の塗装」まで入っています。慌ててでっち上げてみたものの、やっぱり「通常工事」とやらの金額がかなり高い(敷金の額を超えてしまう)ので、むりやり「ペット」の方に押し込めた、っていう苦心の跡がしのばれます(笑)。
その他今回送ってきた「証拠」を並べてみましょう。乙1号証 ふすまの張替え屋さんの請求書
乙2号証 上記の領収書
乙3号証 畳屋さんの請求書
乙4号証 上記の領収書
乙5号証 説明した「通常工事」とやらの見積もり
乙6号証 その請求書
乙7号証 その領収書
乙8号証 説明した「ペット」の見積もり
乙9号証 その請求書
乙10号証 その領収書乙1から4までは、何のための「証拠」なのか理由すらわかりません。
だって、訴状を見ればわかるように、「ふすまや畳の張り替え」は「契約上」ということでこちらも納得済みなんですから。
まあ、それはそれとしても、乙5から最後までは、明らかな捏造です。
そんなものがはじめから存在しているなら、裁判の前にこちらに送っているはずですから。
請求書や領収書まででっち上げるとは、見上げた心意気としか言えません。このため、私はこれらの証拠類をすべて「不知」とするという「証拠認否書」を書いた上で、以下のような「準備書面」を書いて裁判所に送りました。
ちなみにこの準備書面、結構私気に入っています。
お気に入りのところを赤にしてみましたので、笑ってやってください。
裁判所っていうのも、結構遊べるところですよ。(「証拠認否書」というのは送られてきた証拠について「認める」「不知」「否認」「争う」というこちらの態度を示すものです。別に書かなくても、裁判のときに裁判官が聞いてくれますので必要ありません。ただこの場合はこの「準備書面」を書いて、逆に利用してやろうと思ったので、つける必要があったわけです。
ちなみに「不知」というのは裁判用語で「知らない」と言う意味です)
平成十年(ハ)第三四五〇号 敷金返還請求事件 原告 DAI 被告 A子 準備書面 原告 DAI 熊本簡易裁判所民事二係御中 被告提出の証拠について、原告は別紙証拠認否書の通りいずれも不知とするものである が、被告提出の書証には看過できない点、及び逆に原告主張の立証となる点があるので左 記の通り意見を述べる。 一、被告提出の各書証の全てについて、原告は初見のものである。 二、乙第五号証及び乙第八号証に見られる不審な点について @見積書の作成時期 これは「有限会社@@建設」の見積書であるが、被告提出の証書では、「通常時の見 積もり」「動物飼育による追加工事」とに分かれている。 原告に送られてきた見積書では(甲第二号証)九月十日となっているが、被告提出 のものにはなぜか日付がない。ところが、これ以外の@@建設発行の請求書類、領収 書類にはすべて九月二十二日の日付が明記されていることから、当然この見積もりの 作成時期はそれ以前のものとなるはずである。 であるならば、九月十日から九月二十二日までのわずか二週間足らずの間に、@@建 設は二通の別種の見積書を作成したことになり、これは異常であると言わざるを得な い。 さらに原告は甲第二号証の見積もり等を送付された後、請求の理由等を被告に尋ねて いるのであるから(甲第三号証)、この様な第二の見積もりが存在するのであれば、 当然被告はその求めに応じられる立場にあったというべきであり、それを行わなかっ たというのは、この見積もりが当時存在していなかったと推認できる。 しかし、当時この見積もりが存在していなかったならば、「追加工事」と被告が主張 する工事に関連するその他の証書類がなぜ九月二十二日付けで存在しているのか不思 議である。 A工事番号について 乙第五号証記載の工事番号と乙第八号証の工事番号は同一であり、この工事は「追加 工事」ではありえず同一のものとして行われたことは明白である。 またこの工事番号からは、この見積もりが行われた日が「一九九八年七月三一日」で あることが推認できるが、そうであるなら前述@の通り、九月十日の時点で二通の見 積書が存在していることは理解できない。 B「追加工事」の内容と金額について この追加工事は、動物飼育によるものとしており、当然原告飼育の猫が原因による被 害であると解すべきである。しかしながら、例えば「天井塗装」というのはどういう ことであろうか。 猫は敏捷な動物ではあるが、天井を逆さに歩かないことは専門家の意見を待つまでも なく、常識の範囲内である。加えて言えば、原告所有の猫もそのような超能力を有し ているわけではない。何故天井が「動物飼育のため」傷むのか、想像を絶することで ある。 また、「床 フロア合板」「同上張り手間(剥ぎ取り含む)」も原告には理解でき ない。 第一に、フローリング部分については(畳部分も同じであるが)台所の水回り部分( およそ三畳)を除いてカーペットを敷いていたこと。 第二に、猫は犬等と違い、通常爪を出さずに生活すること。 第三に、原告は家具や部屋を傷めることがないよう常に猫の爪切りをしていたこと。 第四に、甲第八号証・甲第九号証からもわかるように、被告があったとする傷を見た 者がいないこと。 第五に、原告が当該の部屋に転居してきた際、管理人より「床も壁もリニューアルし たばかりです」と説明を受けたこと。つまり、床の張り替えが動物の飼育によるもの であるなら、被告所有のマンションには動物を飼っている賃借人ばかりが入居してい ることになる。 以上のような理由により、この床の張り替えが原告が猫を飼っていたことによるため に行われたとは到底考えることはできない。 この他「床CFシート張り」「洋室下段・流し下ベニヤ張替え」についても同様であ る。洗面所にはドアがあり、洋室下段流し下についても扉があり、猫は出入りできな い構造になっている。勿論原告にはそんな所に猫を閉じこめる趣味はない。 ではなぜこの様な「見積もり」ができあがったのか。それは被告が言うところの「通 常工事」代金を敷金とほぼ同額にする都合上、その他をまとめて「動物飼育のため」 に押し込めなければならなかったと推認するのが合理的である。 よって被告のこの書証類は、被告の主張を「立証」するなどとはほど遠い代物であり 、原告と本訴訟を侮辱するものにすぎない。 三、原告の主張する被告の不当なマンション経営について 前項では、被告が証拠と称するものがいかに杜撰なものであるかについて述べたが、 一方で、被告提出の書証には、原告が主張している被告の不当な請求をはからずも自 ら認めたと思われる部分を含んでいるので、以下は、被告提出の書証に基づいて原告 の主張の一部を立証する。 被告は今回、原告への請求を「通常工事」と「動物飼育による追加工事」の二つに分 けてきた。これは、原告が動物を飼育していなければ、原告への請求が「通常工事」 と呼ばれるものだけであったと解される。 さて、その「通常工事」であるが、これには「壁 クロス張り」「既存クロス張り手 間」「配水管清掃」「室内クリーニング」更には「諸経費」「消費税」などまで含ま れている。 この工事の名称が「原状回復工事」や「損傷のための工事」などではなく「通常工事 」と称されているということは、この工事は今回だけでなく、MUビルの入居 者が 退去した後必ず行われている工事であるということを意味している。本訴訟の争点は まさしくここにある。 建設省が平成十年にまとめた、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれ ば、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人 の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗 等を復旧すること」と定義し、いわゆる自然損耗、通常の使用による損耗等の修繕費 用は、賃貸人負担としている。 建設省は、このガイドラインにより原状回復は、賃 借人が借りた当時の状態に戻すことではないことを明確化したという見解である(建 設省住宅局民間住宅課市場企画係「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインの概要 ・甲第十一号証として提出) これに照らしても、右記述のような壁クロスの張替などを、なんの落ち度もない賃借 人に一方的に負担させることは全く不当な行いである。 しかし被告はこれら社会的合意、不動産経営者であるならば当然配慮しなければなら ない基本的な事項についてさえも耳を貸すことなく、これまで原告を含む入居人に対 して不当な請求を続けてきたことが、皮肉にも被告自身が提出した書証によって明ら かになったのである。 以上
いかがですか?
なかなか推理小説的趣向がありますね(笑)。あと、裁判所に自分の言いたいことを言えるということなので、下のような自分自身の「陳述書」も書いて出しました。
平成十年(ハ)第三四五〇号 敷金返還請求事件 原告 DAI 被告 A子 意見陳述書 原告 DAI 熊本簡易裁判所民事二係御中 一、本訴訟を提起した理由 まずはじめに、私は一介の会社員であり、訴訟を好む者でも、金銭に異常に執着し支払 うべき金に固執するような人間でもありません。 ・・・・(プライバシーにかかわることなので二行分カットします(^^)。 にもかかわらず、なぜ今回この訴訟を提起するに至ったか申し上げます。 平成三年に問題の部屋に同僚と二人で入居したのは、@@@@(私の会社名)には「新 卒社員は初任地の住居は自分で負担すること」という奇妙な規則があるためです。大学 を卒業したてで金もない新入社員は、自分で安い部屋を探して借ります。私と同僚の@ @は、物置のようなワンルームマンションが生理的に嫌でしたので、広い部屋を探して 二人で住むことにしました。@@ビル四〇五号室は一部屋ずつ分けてもさらに居間が共 有でき、その上角部屋で全室に窓があり眺望もよく、入居当初は「良い部屋が見つかっ たものだ」と話していたほどです。実際、男二人の入居というのは嫌がられるものです。 ところが、次第に妙なことに気づき始めました。 そのはじめは、平成三年に日本を縦断し大きな被害をもたらした台風一九号の後です。 仕事が終わって自宅に帰ると、私の部屋が雨漏りをしており、悪いことにパソコンを雨 だれが直撃していました。マンションの中層階で雨漏りがあるなど信じられず、階上で 水漏れでも起こしたのだろうと思い、階上の住人に確認しましたが、そこは寝室で水な どありません。私の部屋の窓の張り出しから外壁を調べると、ひび割れが出来ており、 そこから水が浸入したものとわかりました。このため管理人に修理を依頼しましたが、 私が転居するまで修理してはもらえませんでした。 また、私たちが入居する際「全てリニューアルした」と管理人から説明がありました。 この時はまさかその代金を全額退去者に請求したなどとは思いませんから、サービスの いい大家だと思っていましたが、私たちが入居して半年も経たない内にダイニングキッ チンの壁のクロスの一部がはがれ始めました。この修理もしてもらっていません。 さらに翌年、私が働いている昼間、会社へ私と@@宛に管理人から電話がありました。 「あなたたちの部屋で犬を飼っていると大家が騒いでいる」というのです。勿論猫を飼 ったのはこのずっと後、私が結婚してからですから、この当時犬などいるわけもありま せん。そもそも深夜遅く帰って寝るだけ、出張は数知れずの人間がマンションで犬など 飼えるはずもありません。仕事中にそのような馬鹿馬鹿しい言いがかりを付けられ、私 は管理人に「構わないから今すぐ合い鍵で部屋に入って調べなさい」といいました。そ の後そうしたかどうか私は知りません。ところがそれからしばらくして、@@が休日で 一人で部屋で休んでいたところ、突然大家つまり被告がドアを開けて中に入ってきたの です。@@の話では、大家は犬がいると言って部屋の中を探し回り、いないと分かると 挨拶もせず出ていったと言うことです。 さて、@@も転勤でいなくなり、私は結婚した頃、つまり平成八年九月頃です。 熊本県警察本部の暴力団対策課の捜査員が私の部屋を訪れました。隣の部屋の住人が暴 力団と関わっているため聞き込みに来たということでした。実際その頃から、マンショ ンの入り口付近や隣室の前に一見して暴力団関係者とわかる複数の男達がうろつき始め ており、私の妻が彼らから卑猥な言葉をかけられると言うことも起きていました。妻は 熊本市の人間ではなく、当初知り合いもいなかった上にこの様な状況が続き、せめて猫 でも飼いたいと言ったとき、私は敢えて反対しませんでした。 部屋を訪れた捜査員は私から管理人と大家の住所をメモして帰りましたから、当然捜査 員はその後両者を訪ね、大家と管理人の両者は隣室の住人が暴力団関係者であったこと を知っていたはずです(それ以前にマンションの住人から苦情が来ていたと思いますが )。にもかかわらず暴力団関係者を入居させないと言う契約事項は少なくとも私が転居 するまでは守られていませんでした。 そしてこの一件です。マスコミ関係の仕事をしていると血の気の多い人間と思われがち なのかも知れませんが、私はむしろ忍耐強い方であると思います。 しかし、被告からの督促状が私の保証人にまで及んだ段階で、これ以上この非常識な人 間を放置することは出来ないと思いました。いくらむちゃくちゃな要求であっても、こ れ以上放置しておけば私や私の家族がどんな被害を被るかわからない、そう心配する妻 の言葉が訴訟に踏み切った理由の一つです。 また借りた部屋をきれいに使うことは人として常識です。今回私はこの点についても名 誉を傷つけられました。さらに被告は保証人への手紙の中で、私が社会人としても不適 格であるかのような発言をしています。被告のこれらの行為によって傷つけられた私の 名誉を回復することも、この訴訟の目的の一つです。 更に、訴訟を準備する段階で私は知り合いの弁護士や熊本・徳島両県の消費者センター、 熊本県の担当部局などを訪ねた結果、私のような敷金を巡るトラブルがバブル崩壊以後 急増している事実を知りました。敷金を巡るトラブルは昔からありましたが、最近は、 法外な金額を家主側が請求するケースが増えているというのです。しかしそのほとんど が泣き寝入りし、言われるままの金額を払っています。その気持ちは私にもわかります。 筋を通すことがいかに大変か、今身をもって実感しています。 しかし、社会正義の名の下に時には他人を批判する職業に就いている私が泣き寝入りす るわけにはいきません。私の職場では、この裁判に対し非常な理解を得ており、裁判の ため木曜から土曜にかけて休暇を取ることにも配慮してくれています。この様な不当な 請求を増加させないこと、これも提訴の理由です。 二、部屋の使い方について 私と私の妻が、いかに部屋をきれいに使っていたかについて申し上げます。 まず、私は仕事のため、客を自宅に招いくことがよくあります。このためには常日頃か ら部屋をきれいに維持しておかなければなりません。その際猫は寝室(和室)に入れて おきますが、放って置かれたからといって暴れたりするような猫では客に迷惑がかかり ますから飼うわけにはいきません。 また妻は一般的にいってきれい好きな方であると思います。毎日掃除することは勿論、 週に一回はカーペットに覆われていない部分の床と廊下にワックスをかけ、猫の爪を切 ります。猫は爪を立てて歩かないので余りその必要はないのですが、妻としては万一と いうことが心配だったのでしょう。 私はタバコを吸いますが、壁に付着した微かなヤニは最低年に二回は洗剤で拭き落とし ていました。 配水管は転居する直前に私の負担で清掃を行っています。これは流れが悪くなったため ですが、猫の毛が詰まったなどと言うわけではなく、業者は「原因はよく分からないが、 かなり奥の方の、部屋から先のところに原因があるのではないか」と話していました。 よって、私と妻はいかなる原状の変更も行っていませんし、部屋を汚損したこともあり ません。 以上陳述いたします。
これらを裁判所(と相手方)に出し、次の裁判に臨みました。
今回も相手は社員のおじさんです。
裁判官は
「では、証拠の認否ですが、原告のほうは、認否書を出していますね。
では被告、甲第7号証、認めますか」
(被告のおっさん)「不知です」
「甲第8号・・・・」
の繰り返しです。
で、裁判官が
「証拠の新たな申し立てはありますか」
と訊きます。
私が「?」という顔をしていると
「つまり、これらの証人をここに呼ぶとか、あなた自身がここで改めて証言するとか、そういうことをしますか、ということです」
と教えてくれました。
「いや、いいです」と答えると、被告のほうにも同じ質問をして、向こうもその意思が無いことを確認すると、
「では結審と言うことでいいですか」
おお、終わったぞ。
判決は郵便で送ってくれるので、来なくても良いということでした。
(続く)