24.「天罰を与えてください」


この章を書く前に、今回は技術的な話になりそうなので、「番外編」にしようかとも考えたのですが、結局この本編に書くことにしました。
論文の「注」を書くみたいに話を別立てすると、単に「読み物」として楽しんでいただいている方には都合がよいのですが、「参考に」と考えている方や、まとめて読む人には逆に不便そうなので、基本的に私の体験談のみの話は、それが技術的なことだけの回でも、こちらの本編で通すことにします。
(それにしても、今ごろこんな基本的な方針を考えているなんて・・・・・(^^;;)。

さて、前回、前々回と「陳述書」というもののために走り回った話を書いたわけで、「そう言うの面倒だな」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
実際、本人訴訟をされた私と同様のケースの方の中には、こういうことは余りやらずに、契約書程度を提出しただけの方も少なくないようです。
ただ、私の考えで言わせていただくと、こういう陳述書の作成や、そのための取材は可能な限りやっておいた方が良いと思います。
その理由を書きます。

1、裁判官の心証を良くする。

心証を良くする、といっても別にご機嫌を取るわけではありません(そういう弁護士もいるけど(笑)。
「心証」というのは、まあ裁判用語の一つみたいなものらしくて、つまり法律上裁判官というのは「法」と「心証」で判決を下す、ということが決められているわけです。
「法」だけでない、というところがミソです、
世の中で起こる森羅万象はそうそう用意された法律の範囲内で分類分析できるものでは当然無いわけでして、そういうことは法律を作った側だってちゃんとわかっているんだよと。そういう部分は人間である裁判官がちゃんと判断してあげるから安心しなさいと、かなり乱暴に言えば法律がそう言っているわけなんですね。
でも「心証」といったって、裁判官が井戸端会議するわけじゃないんですから、そうそう好き嫌いで決められるわけではない(ホントは好き嫌いで決めちゃったりしてるときもままあるようですが(^^;;)。
ですから、「心証」っていったって、一応決められたルールってのがあります。それがまあ、双方が証拠を出し合って裁判官にアピールすることだと思って良いと思います。
え、証拠を出すのは真実を明らかにするためじゃないかって?
そりゃもちろんそうですよ。ひとつの小さな証拠から巨悪が暴かれたり無罪が証明されたりすることって、よくありますものね(映画や小説の中では、ですが)。
でも、実際に裁判所に行ってみてください。
最初の宣誓なんてどこへやら、もう原告被告双方、180度違うことを並べ立ててます。
嘘八百、なんていうと語弊があるのでしょうが、良心が痛まないのかななんて思っちゃいます。でも大抵は弁護士が代わりに出廷してますから、彼らはあくまで「依頼人がこう言っている」ってことなんですよね。つまり少なくとも自分は嘘ついてないし、ついているつもりも無い。もしもそれが嘘だってことになっちゃったら、それは代理人に自分も騙されたってことです。まあこれを正直な意見と見るか、単なる抜け道と見るかは皆さんにお任せいたしますが、そういう魑魅魍魎が跋扈しているところの管理人が裁判官ですから、特に民事事件の証拠の信憑性なんてまさに「心証」にかかっていることくらい私のような素人でもわかります。
ですから裁判官の前で言いたいことがあるならそれなりの証拠を出しなさい、というのは当然ですし、大事なことです。

2、思わぬ拾い物がある

たとえば私の場合、@@@@システムさんのお話はとても参考になりました。陳述書に書かれた以外でも驚いた話はたくさんありますし、悪徳不動産屋とはどういうものかよくわかりました。
それから酒屋さんの話からは、いかに大家の周辺の人間が泣かされてきたか、その実態も想像以上だったことがわかりました。
酒屋さんから別れ際言われたことがあります。

「天罰を与えてやってください」

天罰ですよ、天罰。
どんな目にあってきたか、これだけで十分わかるというものじゃないですか。
別に正義の味方をきどる気なんて毛頭ありませんが、気力を奮い立たせてくれるには充分です。
裁判なんて不毛なものをやっていると、気力が萎える時というのがあります。
自分の利益か不利益かってことしか眼中に無い悪徳不動産屋にはそんなのはないかと思いますが、そういうのは別として、まともな感情を持っているごく普通の人間であれば、「こんなことやって何になるんだろ」とか「すくなくとも嫁さんには迷惑かけてるよな」とか、そういうことを思ってしまいます。
そう言うときにこういう出会いは糧になるものです。
人間、「自分のために」というだけではどんなことでもなかなか続かないものですよね。

3、相手が弁護士を立てている場合には自分が不利になりかねない

向こうに弁護士がついていれば、まず「証人」を呼ぶ、ということになります。
これをしないような弁護士はほとんど詐欺師ですので、自分が弁護士を雇ってそういう目にあったら即座に「チェンジお願いしますう!」と言いましょう(^^;。
大家側が呼ぶ証人の大抵は、引っ越した後の掃除人とか施工業者とかですので、もう嘘八百並べ立てるわけです。金で心を買われた人間ほど憐れなものはありません。
その場合、もちろんこちらも反攻できますが、そのまえに陳述書を作成するなり、その準備のために走り回っていたほうがスムーズに行くのは当然です。

というわけで、今回は陳述書を作成しました。
前回、前々回ご紹介した2通に加えて、私たちが転居する一ヶ月ほど前たまたま部屋に泊まっていった知人にも、そのときの部屋の印象を書いて送ってもらい、陳述書としました。
これに加えて、当時の部屋の様子を写した写真も出すことにしました。
これは裁判官に勧められたものです。つまり、「写真とか証言とか、そういうものがあれば出しなさい」と言われていたためですね。
ただ、普通部屋の写真なんて撮りません。
ですから、妻と遊びで写したスナップ写真のうち、壁が大きく写っていたり、床が大きく写っているような、つまりは失敗に近い写真が役に立ったわけです。

写真を裁判所に出すときは、B5の紙一枚に、写真を一枚貼り、その下に、いつ頃撮ったか、(わからなければ推測できる撮影時期など、できるだけ詳しく)、誰が、どこで、ということを書けばOKです。
ただ、前にも書いたように、これは裁判所の分と相手方の分、それに自分の控えもあったほうがいいですから、ネガを見つけて、焼き増ししましょう(ネガが役に立ったことなんて初めてでした)。

で、これで一応提出物はそろったので、私は次のような目録を添えて出しました。 必ずいるものか、というとよくわかりませんが、後々自分で自分の書類を整理するときにも役立ったので、作っておいて損は無いでしょう。

           証拠説明書

                           原告  DAI


平成年月日提出分の証書について


甲第七号証その一からその五まで  写真五葉
  原告及び原告の妻が撮影した「@@@@@@号室」の写真。
    撮影日時の特定は出来ませんが、原告と妻双方が写しあっているもので、原告が
  妻と結婚した平成年月以降転居まで平成年月までに撮影されたものであることは間違
  いありません。それぞれの写真から、壁・床・建具・天井などの様子が分かります。
    猫の写っているものは、これ以外に床にピントが合っているものがないためです。
    提出の趣旨・・・入居期間後期においても原告が部屋を汚さず、美しく使用して
  いることを証明するため。

甲第八号証 陳述書の写し一通
  酒店「@@@@」で働く従業員・@@@@氏の陳述書。
    酒店「@@@@」は「@@@@ビル」の真向かいにある店舗で、原告はしばしば@@
  氏に酒類を配達してもらっていました。
    提出の趣旨・・・原告は入居中一貫して部屋を汚損したことがないことを、現時
  点で既に利益関係のない第三者に証言してもらうため。

甲第九号証  陳述書の写し一通
  @@@@氏の陳述書。
  @@氏は、原告が転居する約一ヶ月前(月日)に(省略)の目的で原告の部屋を訪ね
  ており、部屋の状態を十分に見知っていると思われます。
  ※(3行分、私と知人の関係を説明する文章です。知人のプライバシーにかかわりま
  すので割愛します)
  提出の趣旨・・・転居直前においても原告の部屋は美しく保たれており、まして
  悪臭など一切なかったことを証明すると共に、飼い猫が壁などを傷つけるようなこと
  はなかったことを証明するため。

甲第十号証 陳述書の写し一通
  「株式会社@@@@システム」代表取締役・@@@@@氏の陳述書。
    陳述者と原告は陳述いただいた時が初対面です。
  提出の趣旨・・・@@氏の会社は「@@@@ビル」の一階と二階に一昨年月まで入居
  しており、解約の際に本件と同じ様な被害を被告から被っていたことが判明したため
  、被告が異常なマンション経営をこれまでも行っていたことを証明し、本件のトラブ
  ルの原因が原告の過失にあるのではなく、「@@@@ビル」の入居者に共通して起こ
  りうるものであることを証明するため。

平成年月日

熊本簡易裁判所御中
あ、ちなみに「陳述書」はどんな形式でも、最後にその人の署名と捺印があればOKです。

(続く)