8.読書の時間?



皆さんの読書タイムって、いつですか?
いちばん多そうなのは通勤通学の電車の中、という答えですね。
私は中学生の頃、そうでした。片道一時間弱、往復三時間たっぷり読めますから、これだけでも一日一冊のペースで進みます。
ただ、その頃私が使っていた電車は、「本線」とは名ばかりの、どこかでご用済みになってやってきた古い車両だったので、睡魔と戦うのが一苦労。
地方出身の方、または首都圏の方でも四〇代以上ならご記憶でしょう、ヒーターが座席の下にあって、お尻から暖かくなる電車。
あれは眠くなるんですよね。
おまけに三本に一本はもっと古い、きっと蒸気機関車につながれていたこともあるんだろうなと思う客車でした。
客車の外板以外はすべて木製。
床は重油が染みたような真っ黒い板。手すりも窓枠もどっしりとした木。
座席もおなじ材質の木に、青いビロードでクッションが張ってあって、座席と背もたれの角度は90度です。
だいたい、駅に着いたら自分でドアを開けてホームに降りるんですから。今の二十代以下は信じられないだろうな。
だからよくやってましたよ、肝試し。
友達と客車のデッキに立って、目的の駅が近づくのを待ちます。
ホームが見えてきたら、誰が最初にホームに降りるかを競うのです。
つまり、まだ動いている列車からホームに飛び降りるわけですね。
今思い出すと、まあよく無事だったものですが、ほかの客も駅員もたいして気にも止めていなかったんですからおおらかな時代と言うか、少々の無茶をやって痛い目にあって子どもは大きくなるもんだと誰もが思っていた時代だったんでしょうね。良い時代でした。
このいちばん古いタイプの電車、いや客車は室内も薄暗く、あまり読書向けとは言えませんでしたが、私はこの客車を好んで乗っていました。
なんだか落ち着いたのです。
特に冬場は、薄暗い車内に腰掛けると次第に窓が水蒸気で曇って、そのうちいくつも筋を作って流れ出します。
車内が薄暗い分だけ、外から差し込む夕日が明るく感じます。
文庫本を持っている自分の手元と学生服のズボンの太もものあたりが差し込む夕日にぼうと浮かびます。水滴が流れ落ちた跡から見える窓の外には冬枯れの田んぼ。
ずうっとこのままでいたいような気持ちになったものでした。
人間はいろいろなものを失って成長すると言いますが、私にとってあの時間はまさに至福のときでした。
最近読んだ本は片っ端から忘れてしまうのに、あの頃あの列車の中で読んだ本の名前は次々に浮かんできます。
「赤と黒」「カラマゾフの兄弟」「三太郎の日記」「ジェーン・エア」、「どくとるマンボウ」シリーズにはまっては「楡家の人々」に驚き、「狐狸庵」シリーズに笑っては「沈黙」に沈黙してしまい、井上靖さんに耽溺し・・・・・・。

おっと、感傷に浸るのがこの稿の目的ではありませんでした。
どこで本を読むか、ということなのです。
今は私は電車で本を読むことはありません。
なぜかと言えば、それは簡単。電車に乗らないから
この徳島では、仕事場へ通うのは自転車で10分。
首都圏にお住まいの方には申し訳無いような便利さです。
地方にいると、たとえば映画館や書店の数が少ないなんていう不便さはありますが、通勤時間が極端に短い、つまり一日数時間は確実に有効な時間が手に入ると言う何物にも代えがたいメリットがあります。

ただそうなると、読書の時間と言うのは削られてしまいます。
「あれもしたいこれもしたい」という状態で、有効な時間が手に入れば、どうしても読書は後回しになっちゃいます。
本好きの私としては、これもやっぱり困ります。
書店を漁ったあげく、未読の本が増えると言うのは良くない状況です。
就寝前にも当然読みますが、まあ、2,30分ですよね。
寝る前に1時間も2時間も読みはしないわけですし、ついつい朝まで読んじゃいそうだな、という本は寝る前に読まないことにしてますから。

ではどこで読むのか。
列車と同じような読書に最適な場所は?

あるんですよ、これが。

思いがけず前置きが長くなってしまいました。
続きます。