8.読書の時間?(その2)



ずいぶん間延びしてしまいました。
しかし言い訳になりますが、4月というのは年度始めということに加えて5月の連休を控え、忙しいものでございます。この一月ほとんど本も読めない状況でした。

が、そういう忙しい時だって本を読む時間がとれる場所というのが電車の中以外にもあるんですね(ようやく前回の続きに話を持ってくることができた)。

それは、「風呂の中」です。
風呂にも入れないような忙しいときはさすがにシャワーを浴びながら読むことはできない訳なんですが、まあ湯船につかるくらいの余裕があれば、毎日本を読むことができるわけです。
この話をすると決まっていわれるのが「本が濡れるorふやけるんじゃないの」ということです。
大丈夫。本を信じましょう。
写真週刊誌のような紙質のものはさすがにフニャフニャしてきますが、それ以外ならまず大丈夫です。
ただ、できるだけ湿気をこもらせないようにした方がいいのは間違いないので、そのためのコツを少々。
換気扇を回したままにする、というのもいい方法ですが、冬場は寒いですよね。
おすすめなのはバスバブルを使う方法です。
湯を入れる前にスプーン一杯くらい入れておくと泡のお風呂になるというあれです。
これに気づいたのは、以前ドイツに長めの出張に行ったときです。
ヨーロッパあたりのホテルだと、バスルームにバスバブルがついてますから、目新しいものにすぐ飛びつく私は「こりゃいいや」と早速使ってみました。
はじめは泡を手ですくって「フー」なんて飛ばしたりして遊んでいたんですが(男がやると気持ち悪いですね)、それも飽きてきて、ここで本が読めないかと考えたのです。
海外に行くと、日本語への欲求が極限まで高まります。
本が湿気るのではないかという不安もあったのですが、やってみたところまったく問題ありませんでした。バスタブ山盛りの泡が蓋のような役割を果たしているのではないかな、と思いましたが、ホントかどうかはわかりません。
で、帰国してからすっかりこの方法にはまってしまったというわけです。

ただ、文庫本ですとこの方法で問題ないのですが、単行本の場合はそのうち本を持ち上げている腕が疲れてきます。別に体を鍛えるために読書しているわけではありませんから、対策として風呂の蓋を半分くらい湯船に乗せて、その上に本を読むということにしました。これなら何時間だって逆上せなければ本を読むことが可能です。
まあ、少々自分がオイルサーディンの缶詰になった気分がするのが難ですけどね。

「本はまず湿気ない」と言いましたが、文庫本の場合、カバーは外しておく方が賢明です。
経験では、新潮文庫と講談社文庫のカバーは丈夫で、付けたままでも湿気でよれたりする事はありませんが、そのほかの出版社の場合は若干よれることがあります。特に光文社文庫・徳間文庫の紙質はあまり良くなく(これは普通に読んでいても感じますが)、カバーを付けたまま風呂で読んでいると次第に湿気でカバーが反ってきて、油断すると本体がするっと抜けて風呂の中に没入してしまうという悲劇が起こりかねませんので注意してください。

それから、本の間に挟んである出版案内や返信はがきなども取り出しておきましょう。
大抵ページをめくるときに風呂の中に落ちてしまいます。

あまりおもしろすぎる本も問題です。
風呂から出られなくなって、顔から滝のように流れ落ちる汗がページを濡らすくらいならまだ良いのですが、そのうち気を失って発見される危険があります。
どうしてもそういう本を読みたい!という場合は、時々風呂場の中で立ち上がったり、洗い場や湯船の縁に腰掛けて体をさましながら読みましょう。
短編集ならいつでもさっと切り上げられて良さそうだと思われるかもしれませんが、と言うよりそう思って試したのですが、却って「あと@ページで終わりだ」と思って我慢して読み進み、逆上せてしまうということになってしまいました。

こういう風呂場で読む本を我が家では「風呂本」と呼び、脱衣場に本棚まで設けてしまったのですが、これまでもっとも風呂本に適していたのは村上春樹さんの「風の歌を聴け」シリーズ3部作でした。
実を言うと私、どうも村上春樹さんのこのシリーズが苦手で、これまで何度も挑戦しながら途中で放り出していたのですが、風呂場ではあっという間に読んでしまいました。
あのシリーズの小説世界独特の「閉塞状態の中の爽やかな開放感」といったようなものが、「閉塞状態である風呂場の中の湯船に浸かっている爽やかな開放感」とシンクロするのでしょうか。
ま、とにかく、缶ビールでも持ち込んで村上春樹さんを風呂場で読むのはなかなか楽しい、ということをお奨めしておきましょう。

みなさんも、「風呂場ではこの本が楽しい」とか、「私は風呂場でこんなことをしている」ということがあれば是非教えてください。