36.慰謝料なんて怖くない


さて、証人尋問へいく前に、やるべき仕事は一つだけ。
大家側の「反訴状」に対する「答弁書」です。
基本的には本筋とは別の裁判ですから、これを出さないと、大家の控訴状に対する答弁書を出していても、それはそれ、これはこれで、大家側の言い分を認めたことになっちゃいます。
いつものように全文UPです。




平成十一年(レ)第五号
敷金返還請求控訴事件
                    反訴原告(本訴被告) A子
                    反訴被告(本訴原告  DAI


右敷金返還請求控訴事件につき控訴人の反訴に対し左記の通り答弁する。


平成十一年七月日

                 
                 〒
             徳島県徳島市@@@@@@@@
                         右反訴被告 DAI
               電話@@@・@@@・@@@@


熊本地方裁判所民事第四部御中




           答弁書

第一 反訴請求の趣旨に対する答弁

 一、反訴原告の反訴請求を棄却する。
 二、訴訟費用は反訴原告の負担とする。
との判決を求める。


第二 反訴請求の原因に対する答弁

 一請求の原因一のうち、3特約の一人が退去するときは二人とも退去するという点は
 否認。理由は後記第三第一項の通り。その余は認める。
 二同二は否認。理由は後記第三第二項の通り。
 三同三のうち、猫を飼っていた点以外は全て否認。理由は後記第三第二・三項の通り
 四同四は不知。
 五同五のうち、猫の臭いがしたという点は否認、その他は不知。理由は後記第三第二
 ・三項の通り。
 六同六は否認または争う。理由は後記第三第二・三・四・五・六の通り。
 七同七は争う。




第三反訴被告の主張

 一反訴原告が証拠と称する乙一二号証は反訴原告及び訴外Kが入居契約を交わした
  直後に管理会社が書くように依頼してきたものであるが、すぐ後に二人が同時に退
  去することは不可能であることを説明して、管理会社の合意のもとに取り消し、す
  でに無効になっているものである。

 二反訴被告は網戸一枚の破損を除いては原状回復が必要な原状の変更を一切していな
  い。(甲第三・七・八・九号証)。

 三本件建物に猫の毛の付着はなく、臭いもなかった。(甲第七・八・九号証)。

 四反訴被告が入居中、猫を飼っていた期間、また退去後も、猫を飼っていたことを否
  定したことはない。

 五反訴被告は反訴原告に対し、「人権蹂躙」だの「名誉毀損で訴える」などと申し向
  けたことは一切ない。
  反訴被告の元に工事代金を含め請求する旨管理会社から電話があった日に、管理会
  社の指示により反訴原告に電話をしたことがあるが(管理会社では一切関知しない
  ので 、直接電話して請求の理由を聞くよう説明を受けたため)、当然のことなが
  らその際は「なぜ工事代金を請求するのか」説明を求めただけである。
  むしろこの際に一方的に「犬を飼っていた」などとまくしたてられたので、反訴原告
  のこれまでの性癖を思い出し、電話での交渉では後々どんな言いがかりを付けられ
  るかわからないと心配し、この後一切の交渉を内容証明郵便で行い記録を
  残すことに努め、反訴被告の妻にも、もしも大家から電話があれば録音をした上で
  交渉は文書でするように申し入れるよう指示したほどである。
  その後の交渉経緯を見れば、反訴被告らの保証人にも内容証明を送りつけ「人権蹂
  躙 」的言辞を繰り返していたのは反訴原告の方であることは明らかである(甲第
  三・四・五・六号証)。

 六猫を飼うことで反訴被告が契約に違反したことは認めているものであるが、反訴
  原告は契約に反して暴力団関係者を反訴被告の隣室に入居させていたのであるから
  慰謝料請求どころか、反訴原告が受けたと主張する以上の精神的苦痛を反訴被告に
  与えていたことは明白である。(甲第一号証及び本訴原告の陳述書)。

 七反訴被告がなした本件部屋の原状の変更は網戸一枚の破損のみなのであり、この損
  害は代替性のある物件であるから、その破損に対する慰謝料請求は認められない。
                                                                        以上

当然ですが、前に説明した答弁書と書き方は同じです。

最初に、大家のアホな請求を「棄却」するようにはっきり書きましょう。

で、次に大家の反訴状について、事実に間違いない箇所は「認める」、何いってんだこの嘘つきめ、というようなところは「否認」、アホかこいつは、というところは「不知」(しらねーよ)と書きます。
できるだけ細かく書いておいた方がいいようです。

そのあとに、その理由、というか反論を手短に書きましょう。

「第三反訴被告の主張」の「七」ですが、これは若干説明が要りそうです。
つまり大家は、反訴状で「1,猫のせいで部屋が汚れた」「2,猫を飼うという契約違反で精神的苦痛を与えられた」「3,契約違反により大事な部屋を汚された精神的苦痛」の三点で慰謝料を要求しているわけです。
で、こちらとしては、1,2,については「五」「六」で反論をしていますね。
ややこしいのは3、です。
詳しい人に聞くと、これは慰謝料裁判の根幹をなすもので、きちんと説明すると凄くややこしいものなのだそうですが、少々の誤解を恐れずものすごくおおざっぱに言うと、慰謝料というのは「賠償が利かないもの」に対する損失補填なんです。
つまり、「賠償が利くもの」には慰謝料は適用されないということになる、というのが常識です。
ですから前にも書きましたように、敷金訴訟で大家側が「慰謝料くれ」なんてことを言い出す例は滅多にないわけで、その意味でもこんな事を要求したいのであれば、弁護士はもちっと勉強するなり、きちんとその根拠を裁判所に説明するなりしなければならないと思うのですが、それをやらなかったという点でこの弁護士さんはやる気がないんだなあ、と思ってしまうんですね。

もちろんこの点についてこちらが詳細に論破しても良いのですが、面倒だし、上のような一言を簡単に添えていただけであちらの弁護士さんは顔が赤くなると思いますので、最小限でダメージを与えられる程度にしておきました。
もし皆さんが素人だと軽く思われてこんなアホな言いがかりを相手から付けられたら、少しもあわてず答弁書に上の一言を付けておけばよいと思います。

(続く)