30.弁護士の仕事って?


と、言うわけで、次の弁論までに大家側は本件控訴の詳細に加えて「反訴」の方も準備を整えて、証書類を出さなければならないわけです。
次の弁論までは約四〇日。国家賠償請求なんかとは次元が違うんですから、これくらい本職の弁護士なら訳もないと思うんですが(大体こっちは素人がやってるくらいですから)、前回も書いた様にこの弁護士、仕事が遅いんですよね。
反訴状が届いたのは、なんと第二回弁論の二日前。
訴状が届けば、こちらは「答弁書」を裁判所に出す決まりになっています。
第二回弁論までにこちらが答弁書を出そうと思えば、慌てて書き上げて当日裁判所で配るしか方法がありません。
しかし熊本へ行くには裁判の前日に出発しますから、これは事実上不可能です。
これって、裁判の引き伸ばしってヤツじゃないんですかね。
この弁護士だけがそうなのか、それとも弁護士業界ではこれが「戦術」として当たり前なのか知りませんけど、エゲツない。
「裁判の迅速化」ってことがよく問題になって、そのたび裁判所がやり玉に挙げられていますが、こんな「戦術」を使う方がよっぽど問題じゃないかと思います。
で、四〇日近くかかって出してきた「反訴状」が例によってB4二枚。
弁護士さんって、この程度の書類書くのにこんなに手間取っちゃうんですかね。
その「玉稿」をご紹介しましょう。

反訴状(いつもの様に引用です)

請求額は82万7848円、だそうです。
もちろんこれはこれまでの大家の請求とは「別」ですよ(爆)。

請求の理由・・・と言えば。
1、原告は約定による原状回復義務を履行しなかった。

2、猫の毛が多数付着しており、臭いが建具やクロスに付着し、第三者を入居させることができなかった(←ここ、よく憶えておいてくださいね)

3、反訴原告(大家のこと、以下わかりやすく大家と書きます)は三ヶ月間以上猫の臭いが消えなかったので、三ヶ月以上(部屋を)賃貸物件とすることができなかったため、少なくとも賃料三ヶ月分の22万8000円の損害をこうむった(←ここもチェック!)

4、大家は、『反訴被告が(私)長期間猫を飼っていたことで、大切な賃貸物件として入居者を厳選し、管理していた部屋を動物によって汚され、また、退去後も反訴被告が動物(猫)を飼育していたことを否定したばかりか、反訴原告に対し、「人権蹂躙だ。名誉毀損で訴える」などと反発してきたことで、その精神的苦痛は頂点に達した。慰謝料額は30万円を下らないものである。』
(原文のママ。)

ということで82万円になったそうです。
いかがでしょう。
私、これを見てため息が出ましたね。
「弁護士にならなくて良かった」って。(なれないって)。
特に4番目の理由です。
ここまで絵に描いたような、まるでハリウッドのご都合主義の映画の中で苦境に陥った主人公のようなでっちあげを浴びせ掛けられるとは思いませんでした。
大家に金を吹っかけられた人間が、いったいどんなシチュエーションで「人権蹂躙」だの「名誉毀損で訴える」というんでしょうか。ちょっと私には理解できません。といいますか、本当にそんな人間がいたらただのバカですよね。
こんな文章をまじめに書かなければならないお仕事、ちょっと同情しました。

それにもう一つ。
こういう不動産の原状回復をめぐるケースで慰謝料請求が行われたことは、私の知る限りではほとんどないと思います。
つまり、「慰謝料請求」というのは基本的に「代物弁済がきかないもの」の損害について行われるのであって、原状回復すれば損失が取り戻せるものは「慰謝料の対象にならない」ってのが普通の解釈です。
まあ、そりゃそうですよね。
そんなこと認めてたら、交通事故の物損のケースの示談なんか大変なことになっちゃいます。
ですから、そういう無理を承知であえて訴えるなら、この弁護士にしたってもう少しまともな争い方ができた、というか、するべきじゃないのでしょうか。
そう言うかなり無茶な自分たちの訴えを本気で裁判所に認めさせたいならもっと真剣に取り組むべきでしょう。
それが面倒くさいからこの程度の言葉でお茶を濁して、依頼人の顔を立てただけで事を済ます。
あるいは、私が素人だからこれくらい書いておけばびびるんじゃねえか、程度の効果しか考えていない。
もっと自分の仕事に責任と言うか、誇りを持つべきじゃないですか。

個人的には知り合いの弁護士もいて、そういう方を含めてきっと大多数の弁護士の仕事ぶりはもっと違うと思うんですけど、なんだかね。

え、控訴の本筋のほうの「新たな証明」はどうなったかって?
結局第二回期日までに送ってこなかったんですよ。

やれやれ。


(続く)