3.梅酒とダービー



梅雨というくらいですから、やっぱり梅酒。
スーパーにまるまると太った青梅の一キロパックなんてのが並んでいたりすると、「梅雨も悪くないなあ」などと思ってしまいます。
青梅というのは本当に季節もので、店頭に並ぶのは長くて二週間、「後にしよ」なんてのんびり構えているとすぐに手に入らなくなってしまいます。
我が家では数年前から梅酒作りに手を染めているのですが、作るといっても梅一キロで一升を一瓶だけ、飲みきる頃にはおやもう梅雨か、てな具合です。
初めて梅酒を漬けたときがたまたま日本ダービーの日だったもので、以降も毎年ダービーの日が梅酒記念日であるという規則が制定され、瓶にはダービー馬の名前を付けるようになりました。
ちなみに、最も味の良く、客人からの評判も良かった梅酒は、ダービー史上最も印象の薄い優勝馬の名前が冠されています。
「サニーブライアン号」。

まあこのように、我が家の梅酒の生産体制は拡大も縮小もせず、自給自足体制をつづけていたのです。
ところが徳島に引っ越して初めての梅雨を迎えた今年、たまたま採れたての青梅を十キロもらってしまいました。聞くところによると、徳島の阿南市というところは梅の一大産地なのだそうです。

しかし、十キロですよ。
「おお、今年はいい梅がタダで手に入った」などとのんびり考えていましたが、よく考えると我が家で作る梅酒十年分、十瓶も梅酒を造ってどこにおくねんと連れ合いに突っ込まれることになってしまったんですね。
で、どうしたかって?
作りましたよ、梅酒。さすがに三キロはお裾分けしましたが、それでも7キロ。
梅酒を作る瓶が一瓶しかないので、とりあえず夫婦で酒のディスカウントショップに行ってもう六瓶購入。
更にホワイトリカー七升。
氷砂糖四キロ。
ウォッカ一本。
以上の材料をお店のキャスターに乗っけてガラガラとレジまで運んだときの「こいつら何始める気だ」という店員さんの視線は忘れられません。反論できませんから、私達。本来なら日本ダービーの日一日で作ってしまうのですが、何にしろ7キロですから、そんな簡単には行きません。
休日の暇を見ながらコツコツと漬けていったので、結局すべて漬け終えてしまうまで二週間かかりました。おいしい梅酒に育てようと思うと、なかなか手間暇かかるものなのです。

ここで梅酒作り初心者のために、製法を公開致しましょう。

1.梅のヘタを取る。
    つまようじで一つずつ丁寧に。
    この時、キズや虫食いのものを取り除いておきます。 
2.よく洗う。
    これも一つずつ、丁寧に揉み洗いしましょう。
    できれば数回繰り返しましょう。
3.よく拭く。
    飽きずに一つずつ、きれいな、ケバの立っていないタオルで丁寧に拭きましょ
    う。
4.瓶をよく洗う。
    まず水で念入りに洗い、乾かした後焼酎ですすぎましょう。
5.瓶に梅一キロと氷砂糖(400グラムくらい、お好みで)を交互に層になるように
  放り込んで、ホワイトリカー(1.8リットル)を注ぐ。
6.翌日から二週間くらいは毎日一回かき混ぜる。(梅の周りに膜が張るのを防ぐ)
7.ラベルにダービー馬の名前を書く。
まあ、7はともかくとして、梅酒作りというものを簡単にまとめると、ひたすら「一つずつ」「丁寧に」行う根気作業である、ということになりましょうか。
今回七瓶も漬けたわけですから、当然普段できない実験もしてみたくなります。
お気づきですか?購入物品の中に「ウォッカ一本」があったのを。
連れ合いがとめるのも聞かず、やってしまいました。
こいつは、今年のダービーで私が穴で狙っていた「ペインテドブラック」と名づけました。
穴狙いだけではありません。一般的にホワイトリカーで作るよりおいしいといわれるブランデーでも漬けこみました。
スノッブなこいつの名前は、もちろん「アドマイヤベガ」。
毎年同じ正統派の製法で漬けこんだやつは「ナリタトップロード」
それから三週間がたった今、「アドマイヤベガ」と「ナリタトップロード」は実に順調に育っていますが、なぜか私が期待していた「テイエムオペラオー」は濁り始めています。果たして「ペインテドブラック」は大丈夫なのか?

ちなみに、今年のダービーは外しました。