6.簡単本格トムヤムクン!



前回は終戦の日だったためか、このコーナーにしては少し力んじゃったかなあという気がしています。
それで、というわけではありませんが、いきなりトムヤムクンです。

私、東南アジアの料理というのが大好きなのですが、妻はダメ。
インドネシアを旅行した時、私は起きて寝るまで食べまくり、果ては日本人など一人もいない怪しげなレストランでマグロのトロを握りで食べるという暴挙を犯したこともありました。
このときのトロは強烈でした。この店は基本的にインドネシア料理なので、店内は結構広いのですが、天井に扇風機が回っているだけで冷房はない吹き抜けになっていて、ビールでもガンガン飲んでいなけりゃ蒸し暑くてたまんねえって所であります。それでも寿司ネタは一応店内の隅のガラスケースに入れてはありました。私だって馬鹿じゃありません。ガラスケースが見せかけだけのものかもしれないということくらいは考えました。しかし・・・・・。
トロ一貫の値段は日本円で70円。
この値段でトロが食えるとあっちゃあ、日本人なら誰でも注文しますよね。ね。
運ばれていたにぎり寿司を見て私は初めて幾ばくかの不安を抱きました。皿の上に4つ、整然と並んでいるそいつは、カツオのタタキそっくりの色をしてぐったりと力無く小さなおむすびのようなシャリの上に横たわっていたのです。具合が悪そうなトロ君でした。
蒸し暑さとビールの酔いで私は判断力が低下していたのかもしれません。
私はそのトロの握りを口に放り込みました。
最初に感じたのは、歯茎と口蓋に張り付くような生温かさです。
いや、「それ」ははっきりと温かく、前歯にヌペッとのしかかっているのです。
1時間ほど放り出していてネタが乾いてきた寿司に水をかけてドライヤーで熱した状態である、と解説することも可能です。
私は「それ」を噛み切ることを躊躇し、そのままの姿勢でしばらく考え込みました。
私の体が、はっきりと、「それを飲み込んではいけない」と顎に信号を送っているのが感じられます。
隣を見やると、妻が「そら見たことか」と言わんばかりの視線を送っています。
絶体絶命です。私はどうしたらいいのか。とりあえずこの場を脱出するには・・・

飲み込みました。

そして
「いやなかなかトロの味だよ」と妻に脂汗の浮いた笑顔を振りまきつつ、もうひとつの寿司に手を伸ばしている自分がいたのです。
ちなみにその店には「生サバ」の寿司もあったことを付け加えておきます。
私は、というと、翌日は昨日のことなどすっかり忘れ、別の店で「ロブスターを刺身で食わせろ」と交渉しておりました。

話がそれてしまいました。
とまあ斯様に私が現地で食べまくっていた間、妻はほとんど香料の強いものには手を出さず、滞在中もっともおいしかったのは日本レストランのチャーシューメンだったと宣うほどでした。
ある日その妻が突然言ったのです。
「トムヤムクンが食べたい」
彼女が何を考えてそのようなことを言い出したのかは分かりません。しかし私は間髪を入れず、「作ってあげよう」と申し出ました。
ここでおいしいトムヤムクンを食べさせて、「アジアの味も悪くないわね」と彼女に思わせることに成功すれば、次の休みにはまた、あこがれのアジアへ旅立てるかもしれないではないですか。何にしろ、我が家の大蔵省より怖い金融監督庁を抱き込まねばなりません。
で、早速トムヤムクンの素を買いに出かけました。
ところが、ないのです。
あのブーム以来、大抵のスーパーで売っているはずのトムヤムクンの素が、ここ徳島にはないのです(よく探せばどこかにあるのかもしれないけど)。
しかし、こんなことですばらしい夏休みの計画をあきらめるわけにはいきません。
初手から作ろうと決心しました。
でも、トムヤムクンの素さえ売っていないところに、パクチーだのレモングラスだのがあるわけがありません。
で、準備したもの。

ミョウガ2個・・・・スライスします。
ショウガ4分の1・・・これもスライス。
有頭エビ(中1パック5尾入り)・・・・頭と胴体を分けて、背ワタをとります。
レモン2分の1個・・・・絞ってジュースにする。
ニンニク一かけ・・・スライス
ミツバ1束・・・・手で適当にちぎっておく。
マッシュルーム・・・・適当
ニラ・・・・・・お好きな分だけ
ネギの青い捨てるとこ
鷹の爪・・・・・・15本くらい。お好きな量でどうぞ。
中華スープのもと・・・・適宜
塩・砂糖・薄口醤油・酒・・・・適宜

@まず鍋に水を張り、その中にステンレスのザルを沈めます。
A中華スープと鷹の爪を入れます。
Bザルの中に殻を割ったエビの頭、ネギの青いとこ、ミョウガ、ショウガ、ニンニクをいれます。
C弱火で煮込み、沸騰してきたら灰汁を取って、マッシュルームを入れる。
Dとろ火のまま上記の調味料で味を調えます。
Eこんなもんかなあ、と思ったら、ニラとミツバをバラバラと入れて火を止めます。
Fできあがり

こんなもんで、と思われるでしょうが、一度おためしあれ。
結構本格的なトムヤムクンになります。
我ながら日本製のトムヤムクンの素となら、勝負できるぞ、という出来です。

妻の評判はどうだったかって?
それはもう、仕事も裁判の弁論も片づけた私は、あすからバンコクで夏休み!